アクリル板は軽くて透明度が高く、割れにくいことから、ガラスの代用品として幅広く使用されています。新型コロナウイルスが流行した際にはアクリル板による間仕切りがさまざまな場所で使われたほか、ディスプレイや看板、インテリア製品の材料としても人気です。加工難易度も比較的低い一方、アクリルの加工品をきれいに仕上げるには、正しい加工方法を理解しておく必要があります。
この記事では、アクリル板を加工する際に必要な工具と、カット・曲げ・穴あけ・接着など各加工の手順やコツを解説します。
アクリルとは、石油由来の合成樹脂の一種で、いわゆるプラスチック素材の1つです。有機化合物の「アクリル酸エステル」もしくは「メタクリル酸エステル」が重合して生成する化合物です。
アクリルを平らな板状に成形したものは「アクリル板」と呼ばれます。アクリル板は一般的なガラス板に比べて透明度が高く、軽量でありながら強度や耐候性に優れているのが大きな特徴です。そのため、ガラスの代替品として室内窓やコレクションケースなどにも多く利用されています。
アクリル板は破損しても破片が飛び散りにくく、万が一割れた際にもケガをする可能性が低い点が魅力です。幼稚園など子供の安全性を考慮すべき場所では、ガラス窓の代わりにアクリル製の窓が採用されているケースも少なくありません。
アクリル板は加工性に優れた素材です。
アクリル板をはじめとするプラスチック板は、カットや溶接・接着、曲げ、成形、レーザー加工、穴あけ、ミガキなど、用途に応じてさまざまな加工を施して使います。しかし、素材によっては「熱に弱い」「熱伝導率が悪い」などの性質があり、特定の加工ができないケースも少なくありません。例えば、塩ビやポリカーボネートはレーザー加工やミガキに不向きな素材となっています。
一方、アクリル板はほかのプラスチック素材に比べてできる加工の種類が多いのが強みです。熱を加えて曲げ加工をしたり、ドリルで穴をあけたりするなど、幅広い加工方法に対応できます。加えて、軽くて扱いやすい素材なので、住宅資材や看板、食品トレー、水槽、電子機器のディスプレイなどにもよく利用されています。
アクリル板に対して簡単な加工を施す程度であれば、以下のような工具があれば問題なく対応できます。
アクリルカッター | 加工したいアクリル板が厚さ3ミリメートル前後であれば、アクリルカッターで対応できます。アクリルカッターを使う場合は、カッターマットも用意しておきましょう。 |
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のこぎり | 厚さ3ミリメートル以上のアクリル板をカットする際には、のこぎりを使うと便利です。 |
金属製の定規 | アクリル板をきれいにカットするために必要になります。 |
ヒーターキット | アクリル板に機械で熱を加え、曲げ加工をするための工具です。 |
紙ヤスリ | カットしたアクリル板の切断面を整え、滑らかにするために使います。粗さが違うヤスリを何種類か揃えておくのがおすすめです。 |
アクリル専用接着剤 | アクリル板同士を接着する際に使います。 |
旋盤加工やレーザー加工を施す場合は、専用の機器を揃える必要があるため、加工ニーズやコストに応じて自社内で機器を揃えるか、外注するかを選びましょう。
アクリル板はプラスチック素材の中でも加工しやすい素材です。
以下では、アクリルの各加工の手順や注意点を紹介するので、参考にしてください。
アクリル板を長方形や正方形にカットする際の手順は以下の通りです。
1. アクリル板をセットする
2. カットする
3. 切断面を滑らかに整える
アクリルカッターを使ってアクリル板をカットする場合、最初にカッターマットにアクリル板をセットします。必要に応じて下書きや目印の線を入れておくとよいでしょう。
アクリル板をカットした後、切りっぱなしの状態だと切断面が尖っており、触るとケガをする恐れがあります。そのため、紙ヤスリやカンナ、鏡面機などを使って切断面を滑らかに整えることが大切です。
円形や文字など、アクリル板を複雑な形状にカットしたい場合は、レーザー加工を検討するとよいでしょう。
アクリル板を曲げる際の手順は以下の通りです。
1. ヒーターキットを温める
2. アクリル板の曲げたい部分の外側をヒーターキットに当てる
3. 1~2分程度待つ
4. アクリル板を曲げる
5. 角度を固定して1分程度待つ
アクリル板を曲げたい場合、まずヒーターキットを温めておく必要があります。最初の温めが不十分だと、アクリル板をうまく曲げられないため注意してください。
ヒーターキットが温まったら、曲げたい部分の外側から熱を加えます。曲げたい部分を見失わないよう、事前に印をつけておくのがおすすめです。熱で柔らかくなったアクリル板を曲げたら、角度が変わらないように固定して、熱が冷めるのを待ちます。高温で加工しているので、しっかりと冷めるまで加熱した部分には触らないように気をつけてください。
アクリル板に穴あけ加工をする際の手順は以下の通りです。
1. 電動ドライバーにアクリル専用のドリルビットを装着する
2. アクリル板の下に当て板を敷く
3. ドリルで穴あけをする
ドリルビットとは、ドリルの刃を指します。金属・木工用のドリルビットを使うとアクリル板が割れる恐れがあるため、アクリル板専用のものを使用しましょう。
当て板は、アクリル板に穴が開き、ドリルが突き抜ける際の割れを防ぐために用います。穴あけの際には、ドリルの刃先をアクリル板に対して真っ直ぐに押し当て、低速回転でゆっくりと削るように行ってください。切削油などを塗布しながら行うと、摩擦による焼きつけを防げます。
アクリル板に接着加工をする際の手順は以下の通りです。
1. アクリル板の接着面のほこりを取り除く
2. アクリル板同士を仮組みで固定する
3. 接着させたい部分に接着剤を流し込む
4. 3~5秒程度待つ
アクリル板の接着面にほこりがついているとほこりごと接着されてしまうため、最初に取り除いておくことが重要になります。アクリル板同士を仮組みする際には、セロハンテープで固定するのがおすすめです。
接着剤は接着させたい部分に流し込むように使い、あふれてしまった余分な接着剤はキッチンペーパーなどで吸い取ります。接着剤を拭いて取り除こうとすると汚れが広がってしまうので注意してください。
旋盤加工とは、回転させた材料に刃物を押し当てて削り、目的の形に加工する方法のことです。工作機械を用いて行う切削加工の一種で、機械加工の代表的な手法の1つでもあります。
樹脂加工に使われる旋盤には、汎用旋盤や卓上旋盤、NC旋盤などさまざまな種類があります。汎用旋盤は手動で加工を行うもの、卓上旋盤は小型で汎用旋盤と同じ基本構造を持っているもの、NC旋盤はコンピューター制御で自動的に加工を行うものです。
アクリル板の旋盤加工には、以下のような種類があります。
・外径加工
・内径加工
・テーパー加工
・ねじ切り加工
・溝切り加工
・突っ切り加工
旋盤加工の際には、切りくずがバイト(旋盤の切削工具部分)に絡まらないように送り速度の維持に注意しましょう。送り速度が速すぎると切りくずが厚くつながって絡まりやすくなり、薄すぎると薄く長くつながってやはり絡まりやすいので、切りくずが分断されやすい速度を探して設定するのが大切です。
また、バイトを突き出す長さが長いほど、旋盤の振動によりたわみが発生し、加工精度は落ちやすくなります。たわみ量は、突き出し長さの3乗に比例し、バイトの外形の4乗に反比例します。深い穴をあけたい場合などは、突き出す長さを最低限にとどめ、太いバイトを選ぶとよいでしょう。
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レーザー加工とは、レーザーカッターやレーザー加工機を用いた加工方法のことです。アクリル板にレーザー加工を行えば、円形のカットや彫刻なども可能になり、加工の幅が大きく広がります。
アクリル板にレーザー加工をするときは、カッティングテーブルに直置きするのではなく、必ず治具を差し込んで浮かせましょう。直置きすると反射したレーザーにより、裏面がボロボロになります。また、レーザーのスタート位置には白い線が発生するので、線が目立ちにくい頂点部分をスタート位置に設定するのがおすすめです。
また、アクリル板には溶かしたアクリル樹脂をローラーで押し出して成型した「押し出し板」と、溶かしたアクリル樹脂をガラス板に挟んで硬化させる「キャスト板」があります。押し出し板はキャスト板と比べ、柔らかくレーザーで溶けやすいためレーザー加工には向きません。特に、レーザーを使って表面に彫刻をする場合はキャスト版を選びましょう。
アクリル板は、製造業の現場でも幅広く使われており、コツが分かっていれば簡単に加工ができます。特に、カットや曲げ、穴あけ、接着といった基本的な加工は工具さえ用意していれば、アクリル加工専門業者でなくても対応可能です。
ただし、旋盤加工やレーザー加工などは専用の機器が必要なため、機器の導入コストやメンテナンスの負担を考慮し、内製化・外注活用のいずれも視野に入れましょう。
エージェンシーアシストでは、アクリルを使用した産業用の精密機械部品の製作を承っています。部品1個から加工し、品質保証まで行い納品いたします。ぜひご相談ください。
過去のエージェンシーアシストの樹脂・プラスチック加工の実績は以下からご覧いただけます。
エージェンシーアシストの樹脂・プラスチック切削加工実績はこちら
エージェンシーアシストの加工実績はこちら
鉄・アルミ・ステンレスなどの加工実績を多数ご紹介しています。
エージェンシーアシストは、材料の手配から加工、表面処理まで含めて一社購買で調達します。
部品1個からの多品種小ロットで対応が可能です。
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