3DCADのデータ変換において、予備知識がないとデータが破損する可能性もあります。
そうならないためには、モデリング精度やPDQなどについて理解しておく必要があると言えます。
本記事では、3DCADのデータ変換について、モデリング精度やPDQとはどのようなものなのか、3DCADの種類も併せてご紹介していきます。
1.そもそも3DCADとは
2.種類の異なった3DCADを使用してものづくりは行われる
3.3Dデータが破損する理由について
4.3Dデータの破損を防ぐためには
5.ネイティブフォーマット(生データ)と中間フォーマットの違い
5-1.ネイティブフォーマット(生データ)とは
5-2.中間フォーマットとは
5-3.代表的な拡張子の種類
6.データ変換時の注意点とデータ不備の事例
6-1.モデリング精度(トレランス)の違いによるデータ破損例
6-2.位相情報(トポロジー)の違いによるデータ破損例
6-3.不正な形状の存在による不具合
6-3-1.PDQ(Product Data Quality)とは
6-3-2.不正な形状によるデータ品質不良について
7.おわりに
モデリング精度やPDQとは何かについて説明する前にそもそも3DCADとはどのようなものか見ていきましょう。
3DCADとは、言葉の通り3次元(3D)データの製図を行えるCADのことを指します。コンピュータ上でXYZ軸を基準に製図を行うことから、360度から確認することができるため、立体的に完成品をイメージすることができます。
2DCADとは、2次元(2D)データの製図を行うCADを意味します。平面上で立体を表現する第三角法を用いて製図されるのが一般的です。3DCADと2DCADは操作面が異なることから、単純に2DCADを使ったことがあれば3DCADを使えると言うわけではありません。(3DCADには、3D特有のモデリング機能があるため操作の慣れが必要です。)また、製造現場によっては3DCADに対応していないこともあるため、2Dデータへの変換が必要になる場合も多々あります。
▶種類があり、製造業や生産技術向けの3DCADだけでも、iCAD、IRONCAD、SOLIDWORKS、TOPSOLID、Fusion360などといったソフトが提供されています。世界的に使われているものや、日本国内でよく使われているもの、またそれぞれの分野に特化したものなど、ソフトごとの特徴も様々であると言えるでしょう。また、3DCADの種類は、ハイエンド、ミッドレンジ、ローエンドの3つに大きく分けることができます。それぞれの大きな違いは「機能差」であり、ハイエンドが最も機能が多く、ローエンドは機能が少ない3DCADソフトであると言えます。
ハイエンドは自動車や航空機、家電製品など、複雑な設計も対応できるほど機能性が良く、それに伴い高機能なパソコンも必要になります。
ミッドレンジは、価格を抑えながらも必要な機能を多く持つCADが増えてきました。
ローエンドは、低予算で手に入るCADソフトです。フリープランも存在し、最低限の機能があれば良いというユーザー向きといえるでしょう。
このように様々な3DCADソフトが存在し、部品の用途や形状などによって必要な機能なども異なるため、最適な3DCADを活用する必要があります。また使用する3DCADソフトが必然的に異なってくるため、異なるソフトを使用する相手とのデータ変換が発生します。その際に以下のような、データ破損、不具合が起こりやすいのです。
3Dモデルから行われるものづくりで懸念として挙げられるのが、データフォーマットの違いによるデータ破損です。3DデータなどはCADメーカーごとに専用のフォーマットがあります。この専用フォーマットにより、別のCADメーカーでそのままデータを使用することができなくなっております。別のCADメーカーで使用する場合は、中間フォーマットと呼ばれる互換性のあるファイルへ変換する必要がありますが、これも完全なデータと言うわけではありません。
Aメーカーの専用フォーマットを中間フォーマットに変換、その後Bメーカーの専用フォーマットに変換という過程を経てデータを使用できる形式にしていきますが、この一連の流れで3Dモデルが崩れることがあります。
例えば、立体物の面の一部抜け落ちている、貫通穴が止まり穴になってしまっているなど意図しない形状になってしまい、加工者が間違いであることに気づかずに加工、完成品で手元に届いたときに初めて気づくなんてことが起きてしまいます。
■ 面が欠落してしまっている例
■ 貫通穴が止まり穴になってしまう例
(左:CADソフトA 生データ/ 右:中間ファイルに変換後)
3Dデータの破損を防ぐためには、先述したような変換で発生する問題をなるべく抑えることが重要となります。例えば、共通のフォーマットを使用しているデータであれば直接読み込んだり、後述する3Dデータの様々な情報を処理する「モデリングカーネル」が同じであればこれを使用したりするといった方法があります。いずれも不可の場合にはじめて中間フォーマットを活用するようにすれば3Dモデルが崩れる可能性を抑えることができるでしょう。また、中間フォーマットを活用しても完全なデータではない可能性があるとお伝えしましたが、このようなデータ破損につながりやすいモデリングには傾向があります。微小な面や鋭利な面はなるべく作らないようにするなどといったルール化も併せて検討しましょう。
エージェンシーアシストでは、データ破損の起こりやすい箇所のチェックを行っています。
記述した通り、可能な限りネイティブフォーマットでやり取りを行うのがベストですが
お客様の方で中間ファイルにする際は、変換後に生データと変換データを見比べて違いがないか
確認していただくことも重要になります。
エージェンシーアシストはお客様と、3Dデータによる部品調達に共に取組み、精度と効率を高めていく対応を心掛けております。
▶3Dデータで部品調達:サービス詳細・加工実績はこちら
同じメーカーを用いた3Dデータの受け渡し方法として、ネイティブなデータのダイレクト交換もあります。送信側は使用しているCADメーカーのネイティブフォーマットで送り、受信側のCADソフトでダイレクト変換(ダイレクトトランスレーター)が行われます。どのメーカーでも対応していると言うわけではなく、一部のメーカー同士の対応が可能といった程度ではあるので、取引先のCADメーカーが何であるのかも重要です。(同じカーネルであっても、独自の注記などの属性情報を付加されている場合は、データ変換がうまくできない可能性もあります。)
3Dデータの受け渡しをより安定したものにしたい場合には、ネイティブフォーマットや中間フォーマットについても知っておくことが大切です。それぞれについてご紹介していきますので、違いを把握しておきましょう。
各CADメーカーが標準で使用するファイル形式をネイティブフォーマット(生データ)と呼び、このフォーマットの状態では異なるCADメーカー同士での受け渡しは基本的にできません。
そのため、CADデータを受け取る際にはネイティブフォーマットなのか、中間フォーマットなのか確認する必要があります。
ネイティブフォーマットの拡張子の一例として、iCADは「.icd」、SolidWorksなら「.sldprt(部品)」「.sldasm(アセンブリ)」などが挙げられます。
ネイティブフォーマットを異なるCADメーカー同士で受け渡すことは原則できませんが、中間フォーマットを活用することでデータのやり取りが可能です。IGESやSTEPといった規格が代表的ですが、STEPはISO標準規格として進められているデータフォーマットです。
代表的な拡張子の種類を表にまとめましたのでご参考ください。
拡張子 | 種類 | 備考 |
---|---|---|
.iges/.igs/.ige | 中間フォーマット | 2D・3D・アセンブリデータまで扱うことが可能 |
.step/.stp/.ste | 中間フォーマット | ISO標準規格として進められている規格 |
.x_t/.x_b | 中間フォーマット | .x_tは一般的な文字言語、.x_bはプログラミング言語 |
.icd | ネイティブフォーマット | iCAD SXの標準フォーマット |
.sldprt/.sldasm | ネイティブフォーマット | SOLIDWORKSの標準フォーマット |
エージェンシーアシストでは様々な3DCADフォーマットに対応しております。
▶フォーマット、拡張子を確認する
データの品質不良で壊れたデータを修繕するのは、時間がかかり生産性が悪くなります。モデリング精度(トレランス)や位相情報(トポロジー)の違いによるデータ破損の一例をご紹介していきます。
異なるCADメーカーのデータを受け渡す際に問題となるのが、モデリング精度の違いによるデータ破損です。モデリング精度とは、点や線などといった座標値の計算精度のことを指しますが、CADメーカーによってモデリングの精度が異なります。このモデリング精度の違いから、本来つながっているはずの点や面同士が離れてしまい、モデルの形状が成り立たなくなります。
対処方法として、モデリング精度を合わせたり、モデルを制作した後にはモデリング精度の変更を行わないようにしたりなどが挙げられます。
位相情報とは、モデルの形状を構成するための点やエッジ、面などといった各要素がどのようにつながっているのかといった情報のことを指します。形状は同じでも、モデルを作る方法は複数あります。この位相情報の違いが原因で面が破損したり、その他データに不具合が起こることもあるため注意しましょう。
モデリング精度(トレランス)の違いや位相情報(トポロジー)の違い以外にも、3Dデータに問題があることも考えられます。不正な形状がデータ上に存在しているとは具体的にどういったものなのでしょうか。
後述するPDQ とも呼ばれる「3Dデータの品質」でも不正形状についてガイドラインが定められております。3Dモデルの形状に問題があった場合、当然不具合につながりますが、そうならないようにするためにもPDQとはどのようなものなのか把握しておきましょう。
PDQ(Product Data Quality)とは、3Dデータの品質のことを指し、トレランス限度に近い微小な要素や自己交差のある形状などといった問題が含まれていないことを示すものです。
日本自動車工業会JAPIA(日本)や、SASIG(世界)のガイドラインにも掲載されています。ガイドラインは、一般社団法人 日本自動車工業会 公式サイトよりご確認いただけます。
日本自動車工業会JAPIA(日本):https://www.jama.or.jp/cgi-bin/pdq/download_pdq.cgi
SASIG(世界):https://www.jama.or.jp/cgi-bin/it/download_04.cgi
不正な形状によるデータ品質不良として、以下のようなものが含まれますので、それぞれの特徴についておさえておきましょう。
●トレランス限度に近い微小な要素
目に見えない小さなデータは別メーカーの3DCADでは認識することができない可能性があります。
仮の微細要素を想定したオブジェクトを4つ配置
上:CADソフトA(生データ)
下:CADソフトBで中間ファイルに変換
●加工が極度に隣接している
例えば穴がモデルの端ギリギリに加工されていると、トレランス許容値の相違でエラーが発生することがあります。
上:CADソフトA(生データ)
下:CADソフトBで中間ファイルに変換
●自己交差のある形状
鋭く尖った形状等の場合、先端でトレランスよりも狭くなった部分に自己交差が発生する要因となります。
●オブジェクトの接合部が点や線のみ(ノンマニホールドモデル)
先端が細いものなど、接触位置の厚さがゼロになる状態をノンマニホールドと呼び、そのような接触部分はモデルとして成立しないためエラーとなります。
●フィレット面のねじれやうねり
フィレットの作成は難しい作業ですが、自動生成してくれるもの。ただし、3DCADによっては正常に変換されないケースもあります。
●端点や稜線が離れて隙間がある
「モデリング精度(トレランス)の違いによるデータ破損例」でもご紹介したように、トレランス許容値の違いにより発生するデータ品質不良です。
左:端点が離れている例 / 右:稜線が離れている例
本記事では、3DCADのデータ変換について、モデリング精度やPDQとはどのようなものなのか、3DCADの種類も併せてご紹介しました。別メーカーの3DCADを使用したデータの受け渡しは、データが破損する可能性があるのでネイティブデータで受け渡しを行えればベストです。中間ファイルの場合でも完全ではなく、データ破損は起こりうるため相互での確認作業が重要になります。
3Dデータをより安定して受け渡したいとお考えの方は、モデリング精度(トレランス)や位相情報(トポロジー)の違い、3Dデータの問題などについておさらいしておきましょう。
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